Impromptus ber ein Thema von Clara Wieck, Op. 5 (98/11/26 記)
 

Impromptus ber ein Thema von Clara Wieck Op. 5 は、Clara が 11 才の時に作曲した Romance Op. 3 のテーマをもとに書かれた作品です。 この作品は、1832 年に初版が書かれ、その後、1850 年に改作されています。 この改定では、後述するように、独創的なコーダとその処理の仕方を変更し、2つの変奏(第 3, 10 変奏)を削除すると共に、新たな第3変奏を加えています。 私の手元にある、Clara 監修版の楽譜(Edition Breitkopf)にはその両方が掲載されています。

譜例1・2には、テーマの一部を載せました。 譜例1が初版、譜例2が改訂版ですが、丸で囲んだ部分が、異なっています。 特に、赤丸塗りつぶしのところは、主要なメロディラインで、特に異なったイメージを与える部分です。 原曲である Clara の Romance Op. 3 では、改訂版の音づかいになっています。 初版の方が、私はまとまりがよい感じを受けますが、みなさんは、いかがお感じでしょうか?

  譜例1
Intermezzi Op5 (10K)


初版のテーマを示す。 赤丸は、改訂版との相違がある部分を示す。
赤で塗りつぶした部分は、メロディラインで、改訂版と大きな相違が
ある部分で、初版はD(レ)、改訂版はG(ゾ)になっている。

  譜例2
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改訂版のテーマを示す。
赤で塗りつぶした部分は、メロディラインで、改訂版と大きな相違が
ある部分で、初版はD(レ)、改訂版はG(ゾ)になっている。

譜例3・4には、大きく改定された第3変奏を取り上げました。 譜例3が初版、譜例4が改訂版の冒頭ですが、一見しておわかりいただけるように、初版では、もとの Clara のテーマが色濃く残っておりますが、改訂版では、クララのテーマは雰囲気感だけに薄められています。 改訂版の方が、曲全体から見たバランスはとれるような感じもしますが、第2変奏からの流れがスムーズなのは、初版だと思います。

  譜例3
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初版の第三変奏の冒頭を示す。
赤丸は、クララのテーマのモティーフを示している。

  譜例4
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改訂版の第三変奏の冒頭を示す。
クララのテーマのモティーフは、表面に表れてこない。

譜例5には、シューマンらしい凝り性な部分を示しました。 左手が4分の2拍子、右手が8分の6拍子になっています。 わざわざこのように書かずとも、右手も4分の2拍子にして、(8分の6拍子換算で)3拍分を、3連符でまとめれば、リズム進行自体は、同じになりますが、わざわざこのように拍子を書き分けているのが何を意味するのか・・・。 ここのサイトを読んでいる方は既におわかりですよね。 規定のリズム感覚を右手と左手とで弾き分けないといけないことを、明示しているわけですね(^^)。

  譜例5
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右手と左手で拍子が異なっていることに留意。
ここでも、付点8分音符(青丸)が微妙なタイミングを作っていることに
留意したい。

譜例6・7は、最終変奏の終結部で、譜例6が初版、譜例7が改訂版です。 初版では、Abegg VariationenPapillon でも取り上げてきた、音が消え去ることで、その音の余韻で、その音を生かそうとするシューマンらしい終結方法をとっています(譜例の赤線部)。 その一方で、改訂版では、Clara のテーマが展開されてオーソドックスな終止がとられています(譜例の青線部)。 初版のほうが、Clara のテーマが聴き手の心の中に響き続けるだろうとは思いますが、聴き手を選ぶ感じは否めません。 また、演奏会で効果は、むしろ改訂版の方が安定しているだろうと思います。 個人的には、初版の終止が圧倒的に好きなのですが、改訂版の終止方法にも一理あると考えざるを得ません。

  譜例6
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初版の最終変奏の終結部を示す。
クララのモティーフが、終結部でも、右手・左手ともに別々に
出てくることに留意したい。

  譜例7
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改訂版の最終変奏の終結部を示す。
クララのモティーフが、青線に示すごとく、展開されて、
終結していく。

一般に、初版と改訂版との楽譜が残されている場合には、改訂版が、より完成度が高いと考えられることが多いのですが、この曲に関しては、例外と言えましょう。 同じテーマで書かれた変奏曲が二通りあると考えたほうがよい感じです。 多くの演奏者達が、あえて初版を録音していることが、その証拠と言えましょう。

さて、おすすめの録音ですが、初版の演奏に良いものが集まっています。 伊藤恵の録音(Fontec FOCD3438)は、彼女らしく、一音一音を大切にした演奏です。 キータッチも多彩で、表現力に富むおすすめの演奏です。 リズム感の取り方も的確です。 この曲では、クララのモティーフが至るところにちりばめられていますが、それを、うまく表現しています。

もうひとつ、お勧めしたいのは、ヴェロニカ・ヨッフムの録音(TUDOR 7028)です。 女流らしい、丁寧な演奏で好感がもてます。 対位法的な複雑なメロディラインの流れをうまく表現しています。 難点を言うと、楽譜に忠実であろうとしているのはわかるのですが、時々、指がもつれるような印象を与える部分があることでしょうか。 しかし、この CD では、原曲の Clara Schumann-Wieck の Rommance varie Op. 3 も録音されているという他にはない利点があります。

シュヌア(Orange Note ON-3005)の録音は、先の二つとは異なる魅力を感じさせられます。 曲全体の構築力のうまさに、大きな卓越さを感じさせられます。 意地悪なことを言うと、時おり、細かなリズムが危うくなるのですが、そんなことは気にさせられない立派な演奏です。 この意味では、欲を言えば、もう少し、若いときに録音して欲しかったように思ってしまいます。

これら3つのうち、ベスト盤を選べと言われると困ってしまいます。 伊藤恵とヨッフムのふたりの演奏は、どちらかというと同系統の演奏で、シュヌアは先の二人と比較すると、対照的な演奏ですが、いずれもこの曲の美しさを良く出した演奏だと思います。

改訂版の方ですと、面白い演奏として、ピアノ三重奏に編曲した録音(Abeeg Trio, TACET LC7033)が残されています。 この他、初版・改訂版を双方録音した イェルクデームスの録音やエンゲルなどの全集にも収録されています。

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