真空管な日々(その2) (98/3/17 記)
 

6G-A4 シングルアンプは、回路構成が簡単なこともあって、いとも簡単にでき上がった。 ところが、音がいまひとつ・・・ 寝ぼけたような音でいながら、硬質な音だ。 さび釘の芯が入っている、ゆですぎたうどんのような音。 今回はエージングやウォーミングアップの問題ではない。 頭を抱えてしまった。 6R-A8 を手に入れるべきだったか? それもいいだろう。 すぐに雑誌の広告をみたが、もう広告さえ見当たらない。

出力管を代えるか? 6G-A4 以外の球で、すぐに頭に浮かぶのは、6C-A7 三結である。 さっそく試してみると、ちょっとクールだが、素性の良さがうかんでくるような音だ。 これで決まり! と思ったが、電源トランスの容量を超えている。 6C-A7 は大喰らいなのだ。 電源トランスを替えるとかすれば、使えるが・・・。 次は、6V6-GT を試した。 まずまずといったところ。 しかし、先の 6R-A8 シングルアンプに比べると、やはり見劣り(聴き劣り^^)がする。 う〜ん。 6G-A4 シングルアンプ失敗か

そのころは、空前のオーディオブームの時代であった。 最近は、泣かず飛ばずで、大ブームがあったなどとは信じられない。 自分のアンプに失敗して、当然のことながら、市販アンプにも目がいってしまう。 自作オーディオをし始めた私に、市販アンプ・コンプレックス病がやってきた。 誰もが一度はかかる病気だろう。 市販アンプへのあこがれ、あるいは、市販アンプなら自分のアンプより数段優れているという思い込みである。 市販のアンプには、自作アンプより優れた製品が存在するのは確かだが、AUDIO は所詮趣味の世界。 「使っている本人が気に入っていれば、それで良い。」という当然の帰結に気がついていない。 市販アンプ・コンプレックス病が、コンプレックスたる所以だ。 6G-A4 シングルは、もはや目に入らない。 市販アンプを買いに走る。 私が選んだのは、DENON PMA-970 という、重たいアンプ。 PRA-2000 と PMA-3000 という一世を風靡したモデルのことは、ちょっとしたマニアなら誰でもご存じだろう。 PMA-970 は、 PRA-2000 と PMA-3000 を小ぶりにして、ひとつの筐体に組み込んだプリメインアンプである。 重さが 28 Kg あって、50 cm を越える横幅のおかげで、置き場所に一苦労した。 ついでに、LPプレーヤーもグレードアップした。

Audio system (4k)
市販アンプが初めて入ったころ(1982 年ごろ)

金田式アンプと PMA-970 とを比べると、音の粒立ちや、低域の制動力などは、金田式アンプの方が優れていたと思う。 音と対峙して聴くのなら、金田式アンプが圧倒的によい。 しかし、リラクセーションの表現や、聴くものをゆったりとくつろがせてくれるのは、PMA-970 のほうだ。 金田式アンプを長時間聴いた後は、かなり疲れてしまうが、PMA-970 はそのようなことはない。 どちらが優れているかは、人によって異なるだろう。 私の場合は、甲乙つけがたいと思っていたが、次第に、金田式アンプは、電源スイッチをいれられる日が減っていった。

このころ、私は、Elly Ameling(ソプラノ歌手)の LP に出会った。  Elly Ameling の声は、清純できれいで、しかも甘い。 シューマンの女の愛と生涯(Schumann おすすめの曲 参照)の LP で、私は、Elly Ameling のとりこになった。 ところが、金田式アンプは、彼女との相性が非常に悪いのだ。 録音が悪いことも原因の一因かもしれないが、彼女の声がささくれだつ。 この一件で、私は金田式アンプを手放すことにした。 幸い、嫁ぎ先の希望が、以前からあったことだし。

金田式アンプを手放した直後、偶然通りがかったレコードショップで、たまたま、気に入った音を聴いた。 唄っていたのはマリア・カラス。 ちょっと古くさい音だが、柔らかで、人恋しくなるような音だ。 アンプは・・・ と探してみたら、ラックス MQ-60 のキットだった。 50CA10 プッシュプルの真空管アンプだ。 ご丁寧に、無帰還アンプと表示がしてあった。 放置しておいた、6G-A4 シングルのことを思い出した。 そうだ。 無帰還アンプにして調整してみよう。 これまで、無帰還で聴いたことはなかった。 (陰の声: やけのやんぱちな発想だ。) 意外なことに、これが良かった。 音自体は好ましいのだが、もう少し分解能が欲しい感じが残った。 金田式アンプと足して,2で割れれば、いうことないのだが・・・ と思ってしまった。 金田式アンプの特徴は、もちろん、DC アンプであることだが、電源に定電圧電源を採用していることもあげられよう(採用していないのもあるが)。  定電圧電源の利用は、その当時はまだ珍しかった。 無謀なアイディアだが、定電圧電源を利用すれば、音が金田式アンプに近くなるのではないだろうか? 手詰まりになっていた私は、そんな風に思いながら、6G-A4 シングルの B+ 電源を定電圧化してみた。 たまたま、高圧定電圧電源で使える、パワートランジスタをジャンクで持っていた。 幸いなことに、この試みはよかった。 音の粒立ちがよくなった感じである。 愛聴盤の Elly Ameling をかけてみる。 合格だ。 彼女の声がいっそう麗しく、愛らしく聞こえてくる。 結果的に、アンプ部分(回路図)は 6G-A4 の無帰還シングル、電源部はトランジスタ式の定電圧電源(回路図)という構成になった。

気を良くした私の次のターゲットは、真空管式プリアンプだ!

(to be continued...)

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