6 Intermezzi, Op. 4 (Vol. 1) (98/10/25 記)
 

おすすめの曲・6 Intermezzi の連載にあたって

6 Intermezzi Op. 4(6つの間奏曲)は、Robert Schumann の初期のピアノ曲のなかでは、無名の曲ですが、Robert らしいリズムの使い方にあふれた隠れた名曲です。 この曲で使われたリズムやアクセントの手法は、Carnaval Op. 9, Symphonische Etden Op. 13 を初めとして、Konzert fr Klavier und Orchester Op. 54 などの後期の佳品に至るまで、用いられているように思います。

しかしながら、Intermezzi Op. 4 は、弾く側に立ってみれば、あまりにも複雑なリズムと、小節内アクセントの移動がおびただしいために、解釈・演奏ともに非常に難しいことになります。 事実、このリズム感をきちんと表現した録音は、ほんのわずかしかありません。 ピアノ曲全集を録音するほどの、優れた演奏家である Karl Engel, Jrk Demus の録音でさえも、この曲に関しては、落第点をつけざるを得ません。

ここでは、この曲の解説を数回の連載で掲載するとともに、MIDI ファイルを作成・掲載して、Intermezzi Op. 4 の魅力をあきらかにしていきたいと思います。 私が作成した MIDI ファイルの演奏は、この曲の魅力のごくごく一部を表現できているに過ぎませんが、この隠れた名曲を知っていただく一助となればと考えております。

 

前書きに、私は Robert らしいリズム感と書きました。 私は、Robert らしいリズム感とは、シンコペーテッドなリズムにあると考えています。 さらに、そういったシンコペーテッドなリズムの連続により、本来の拍子(例えば、4分の3拍子なら、強・弱・弱のリズム)からの逸脱をはかっていくことで、変拍子に相当するような効果を、古典主義の音楽形式の中でも実現したところが、特徴だろうと思っています。 同時代の作曲家のメンデルスゾーン、ショパンなどには、このようなリズムが曲の構成上の重要な要素になっていることは、ないように思います。 ここでは、Intermezzi Op. 4 の第1曲を例にとりながら、それを示していきたいと思います。

  譜例1
Intermezzi Op4-1 (14K)

水色で示したところに、アクセントがおかれる。 
上段では、常に第2拍目におかれている。 下段の最初の小節では、
アクセントが明示されておらず、アクセントは第1拍目におかれる。
その後は、強弱記号により、2小節ごとに第1拍目におかれる。
赤丸は、副付点音符を示す。

譜例1は、Intermezzi Op. 4 の第1曲の冒頭部を示しています。 冒頭の3小節は、16分音符とスタカットがついた8分音符の連続です。 この、たたみかけるようなリズムが、この曲全体を通して聴かれます。 譜例1の第一段の後半の4小節でも、このようなたたみかけるようなリズムがあります。 副付点8分音符−32分音符のリズムがそうです。 Carnaval Op. 9 の終曲や、Synfonishces Etden Op. 13 の Etden II, VIII などでも、これと同じような副付点音符の使い方がなされています。 

考えすぎかもしれませんが、譜例1第二段の第2小節以降の、単調なスタカートの8分音符の連打がまた、ときおり現れる、例の、副付点8分音符−32分音符のリズムを引き立たせているように思うのです。 譜例2に示すように、副付点8分音符−32分音符のリズムが、3連符にくずされていくこともありますが、かえって、たたみかけるような副付点8分音符−32分音符のリズムが、耳に残るように思います。 このような、微細なリズムへのこだわりが、Robert の音楽には、繰り返して出てくるように思います。

また、第一段の後半の4小節では、ずっと第二拍目に sfz(スフォルツァンド)がつけられていて、もはやワルツの3拍子のイメージは、吹き飛ばされています。 ところが、譜例1の第二段に入ると、アクセントは一拍目に戻ります。 第二段の第2小節以降では、1拍目の副付点8分音符−32分音符のリズムに、ff の指定をつけてアクセントをつけ、2拍目以降と次の小節では、音量を落とさせています。 こうして、アクセントは、2小節に1回という形になります。 このような、リズムの変容もまた、Robert の音楽の特徴の一つではないでしょうか

このような、変容を続ける複雑なリズム/拍子は、中間部の Alternativo まで続きます。

  譜例2
Intermezzi Op4-1 (5K)

Alternativo では、先の副付点音符は影を潜めますが、古典的な拍子感覚からのずれを意図した表現は続きます。 例えば、譜例3に示すように、拍子のアクセントは、第二拍目半のところにおかれています。

  譜例3
Intermezzi Op4-1 (4K)

水色で示したところに、アクセントがおかれる。 
常に第2拍半のところにおかれている。

中間部の譜例4にも、譜例1の冒頭にみられた16分音符−8分音符の繰り返しが、潜んでいます。 ところが、それもいつのまにか、譜例4の後半に示されている八分音符の連続で、きれいに崩されていって、中間部が終了していきます。 ところで、譜例4の冒頭の部分では、アクセントが1拍おきにつけられているので、あたかも2拍子のような感じがします。 これもまた、先に述べた拍子感覚の喪失と言ってもいいでしょう。

  譜例4
Intermezzi Op4-1 (6K)

水色で示したところに、アクセントがおかれる。 
第2拍おきにおかれていて、最後は、本来の第一拍目(緑色)のところに
アクセントがもどる。

赤線が示されているのは、譜例1の冒頭にもみられる 16分音符−8分音符の
リズム。 このリズムの繰り返しがあった後に、ピンクの線で示される8分音符
の羅列に、リズムが引き渡される。

中間部が終わると、また譜例1の主題が再度提示されて、曲が終わります。 私には、この曲が、リズム感の養うためのエチュードのように感じられます。 どの譜例でもかまいませんので、リズムを取ってみてください。 容易にリズムを取ることが出来ないのが、おわかりいただけるかと思います。 この曲は、MIDI ファイルを作成してありますので、ぜひとも聴いてみてください。


Intermezzi Op.4-1

to be continued...

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