長岡教へのいざない (98/2/20 記)
 

最初のオンボロシステムができたころ、レコードは高くてあまり手が出なかった。 当然なことながら、私の主要なソースは FM だった。 エアチェックなんて言葉を知ったのもこのころ。 FM の番組紹介雑誌もいくつかあったが、クラシックファンにも情報がそれなりにあったのは、FM fan である。 そして、FM fan のオーディオ紹介記事は、長岡鉄男氏が担当していた。 フォステクスのユニットを利用したバスレフ式スピーカーの自作や、鉛板などを利用して徹底的な重量作戦を展開して余分な振動を押さえ込んでしまうことで有名である。 一方、LP では、パイオニアのゴムシート(JP-201 ? もう型番を思い出せない)をターンテーブルシートとして乗せて使うのが良いという話もあった。 マイクロの吸着ユニットだとか、吸着シートなどが出てくるのは、もっと後になってからのことだ。

さっそく、私も真似をし始めた。 スピーカーを長岡式のバスレフに改造して、鉛をしこむ。 アンプなどには鉛板。 ターンテーブルには、もちろんパイオニアのゴムシート。音は変わったか? スピーカーは、確かに変わった。 ダクトの設計をかえたのだから、音が変わるのは当たり前。 それ以外は、微妙な差だと思う。 でも、本人は大満足である。 当時の私は、音の良し悪しなんてわかってなかったに違いない。 音さえ変われば満足だったのだろう。

1978 年 6 月 12 日 宮城県沖地震(マグニチュード 7.4)が、仙台を襲った。 死者 28 名をだした。 死者のほとんどが、倒れたブロック塀の下敷きになったため。 私の家の石塀も完全に倒れた。 幸い、私の家の石塀による人的被害はなかった。 しかし、私のオーディオシステムは、かなりの被害を受けた。 それを助長したのが、例の鉛板であった。 単にアンプの上などに載せてあっただけなので、大地震で簡単に吹っ飛んでしまった。 いくつかは、窓ガラスをやぶって外にほうり出されており、誰かにぶつかっていたらと思うと、ぞっとする。 スピーカーも鉛板の直撃をくらい、ユニットが破損し、箱も大きなダメージを受けた。 幸い、市販の製品は、問題なく動いたが、私が作ったアンプは、スイッチなどの部品交換を余儀なくされた。 鉛板をのせたのは、「 my own risk 」で行ったことで、他人に文句をいえることではない。 しかし、これ以降、鉛板を止めたのはいうまでもない。

この地震は高校3年の時で、受験を控えており(親の手前、遊んでばかりもいられなかった?)、アンプはこっそり修理したものの、スピーカーの修理には手が回らず、最後には親にねだって、中古のスピーカーを買ってもらった。 選択の余地は限られていたが、Fostex A-300 に出会えた。 このスピーカーは、和製の AR-3a というべき製品(パチもんともいう ^^)で、完全密閉型の 30 cm ウーファーに、ドーム型のスコーカー・ツィーターがついていた。 クロスオーバーは、500 & 5000 Hz だった。 音の出方は、長岡式バスレフとは正反対の方向であった。 しかし、私にはこのスピーカーの方が、はるかに好ましく思えた。 弦楽器がうるさくひびくこともない。 ピアノの音も、クラシックとしては、自然だ。 自分の好みの音をつかみ始めたのは、このころだったに違いない。

このころの私の愛聴盤は、ウィーンコンチェルトハウス弦楽四重奏団による、シューベルト「死と乙女」である。 ウェストミンスターのモノラル版ではなく、1961 年の来日時の録音(日本コロムビア)である。 死に神がいたいけな少女を連れにやってくるという状況設定が、乙女チック趣味の私にあっていて(本当かよ?)、聴き始めたのだろう。 冗談はともあれ、このレコードのおかげで、私は自分の作ったオーディオ装置で、自分の好みの音楽を、自分の好みの音質で聴く楽しみを覚えたのは、間違いない。 また、それまで、ピアノ一辺倒だった私が、室内楽の楽しみを覚えたのもこの曲のおかげだろう。 当時、開店したばかりだった仙台レコードライブラリーに通い始めたのも、この曲のおかげである。 (それにもかかわらず、仙台レコードライブラリーで、最初に買ったレコードが、トスカニーニなのは、誰のせいでしょうねぇ?) ちょうどウェストミンスターの廉価版が出始め、ウィーンコンツェルトハウスと聴けば何でも買い込んでいた覚えがある。 モーツァルトのディベルティメントや、クラリネット五重奏曲(当然、ブラームスも)などと出会えたわけだ。 そして、仙台レコードライブラリーのおかげで、国内・外を問わず、シューマンの LP / CD を手に入れることができた。

さて、本題にもどって、スピーカーであるが、 Fostex A-300 は、小さな箱で低音まで周波数特性が確保されるかわりに、振動板が非常に重く、私が作ったような IC アンプでは、歯が立たない。 そんなときに私が目をつけたのが、MJ「無線と実験」の製作記事であった・・・。

(to be continued...)

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